アラジール症候群とはどんな病気?
~診断から治療まで、まず知っておきたい基礎知識~
アラジール症候群は、生まれつき肝臓や心臓、血管、目、骨など全身のさまざまな臓器に影響を及ぼす希少な遺伝性疾患です。
患者さんによって症状や重症度は大きく異なり、「同じ病気でも全く違う経過をたどる」と言われるほど個人差があります。
患者さんやご家族にとっては、「なぜ黄疸が続くのだろう」「なかなか診断がつかない」「将来どうなるのだろう」と、
多くの不安を抱えながら過ごされることも少なくありません。
しかし近年では、遺伝子診断の普及や病気への理解の進歩、新しい治療法の登場により、
以前よりも適切な診断や治療を受けられる機会が増えてきました。
今回は、アラジール症候群の基本的な特徴から診断、治療まで、まず知っておきたい基礎知識についてご紹介します。
アラジール症候群は、主にJAG1遺伝子、まれにNOTCH2遺伝子の変化によって起こる先天性疾患です。
これらの遺伝子は胎児期にさまざまな臓器が正常に形成されるために重要な役割を担っています。
そのため遺伝子に変化があると、肝臓だけではなく、心臓、血管、腎臓、骨、眼など複数の臓器に特徴的な症状が現れることがあります。
発症頻度は約3万~7万人に1人とされる希少疾患ですが、近年は遺伝子検査の普及によって診断される患者さんが増えています。
最も多くみられるのは肝臓の症状です。
肝臓の中には、胆汁という消化液を流す「胆管」があります。
アラジール症候群では、この胆管のつくりが生まれつき少ない、あるいは細いため、
胆汁がうまく流れず「胆汁うっ滞」が起こります。
その結果、
などがみられることがあります。
特に「かゆみ」は生活の質(QOL)を大きく低下させる症状の一つで、夜眠れない、
集中できない、皮膚をかき壊してしまうなど、ご本人だけでなくご家族にとっても大きな負担となることがあります。

アラジール症候群では全身の病気として考えることが重要です。
約9割の患者さんで先天性心疾患がみられます。
治療を要さない軽度のものから新生児期に手術が必要になる重症のものまで幅があります。
比較的多いのは肺動脈狭窄ですが、重症の場合にはカテーテル治療や手術が必要になることもあります。
脳や腹部など全身の血管に異常がみられることがあり、まれではありますが脳出血や脳梗塞など重大な合併症につながる場合もあります。
水腎症などよくある腎泌尿器系の生まれつきの形成異常や、腎機能障害を合併することがあります。
成人期に腎不全で透析を要するケースもあります。
視力には影響しないことが多いものの、眼科検査で特徴的な所見がみられることがあります。
背骨のレントゲンで「蝶形椎体」と呼ばれる特徴的な形が確認されることがあります。特に治療を要することはありません。
額が広い、あごが小さい、目の彫りがやや深いなど、特徴的な顔立ちがみられることがあります。
ただし、これらの症状がすべて現れるわけではなく、患者さんごとに症状の組み合わせや重症度は異なります。
以前は肝生検など複数の検査結果を組み合わせて診断されることが一般的でした。
現在では遺伝学的検査の進歩により、JAG1遺伝子やNOTCH2遺伝子の変化を
確認することで診断されるケースが増えています。
診断では、
などを総合的に評価します。
症状が軽い患者さんでは乳児期に診断されないこともあり、学童期や成人期に診断される場合もあります。

現在のところ病気そのものを完全に治す治療法はありません。
そのため、一人ひとりの症状に応じた治療を組み合わせて行います。
主な治療には、
などがあります。
近年では、腸での胆汁酸の再吸収を抑える新しい治療薬が使用できるようになり、強いかゆみの改善が期待されています。
また、肝機能が著しく低下した場合や重度の胆汁うっ滞が続く場合には、肝移植が選択されることもあります。
アラジール症候群では、定期的な通院を続けながら病気と付き合っていくことが大切です。
成長や発達、栄養状態を確認するとともに、肝臓だけでなく心臓や血管など全身の状態を定期的に評価する必要があります。
また、見た目では分かりにくい病気であるため、学校生活や社会生活の中で周囲の理解を得ることも重要です。
患者さんやご家族だけで抱え込まず、医療機関や患者会、支援団体などとつながりながら情報を得ることで、不安の軽減につながることも少なくありません。

アラジール症候群は、一人ひとり症状や経過が大きく異なる病気です。そのため、「ほかの患者さんと同じではない」と感じることもあるかもしれません。
しかし近年は、遺伝子診断の進歩や新しい治療薬の登場により、以前よりも適切な治療や支援を受けられる環境が整いつつあります。
病気について正しく知ることは、必要な医療につながる第一歩です。
そして、ご本人やご家族だけでなく、周囲の人々が病気への理解を深めることも、安心して生活できる社会につながります。
分からないことや不安なことがあれば、一人で抱え込まず、主治医や専門医、患者会などへ相談しながら、ご自身に合った治療や生活を一緒に考えていきましょう。
監修:筑波大学医学医療系小児科講師 今川和生 先生